珊瑚や海綿を思わせる多孔質の作品は、抜殻のような静かな明るさと、乾いた雰囲気に包まれている。が、その形は伸び上がり折れ曲がりして、どこか生々しい姿態をみせる。
土は生成りと、黒御影を使った濃灰色の二色。形は玉作りという手びねりの手法でつくられる。「∞+76」幾重もの薄い部分は、内から外へと土を広げてできる形。「∞+71」は細長いパーツが外から加飾されている。「∞+75」の場合は球体をつくって中を削り、上下のパーツが同時に仕上がるようにして、制作の過程で徐々に全体の形が決まってゆく。 「∞+75」は中央で上下にわかれるつくりだ。内部は金色に彩色されて器にもなる。「∞+76」は香炉として使ってもよいし、灯かりとして会場を演出している作品もあった。作者によると「今回の場合はオブジェでもなく器でもないものを意識した割りには器に近くなっている」のだそうで、それは作品の「内側」を考えたためだという(同展パンフレット/インタビュー・大橋恵美氏)。 会場の一隅には「ゆっくり、さかさまに持ってください」という作者自身の言葉が添えられた、音のでる作品群もあった。珪砂やステンレス片を芯にしてスポンジで包んだ上から土を楕円形に形づくり、その外から釘をさしてゆく。すると焼成中にスポンジが燃えてなくなり、焼成後、土に刺さった釘と珪砂・ステンレスが当たることで、水の流れるようなキラキラと澄んだ音が響く仕掛け。 灯かりが洩らす光、香炉から昇る煙と香、そして音。兼藤忍さんの陶芸は、陶と陶でないものの出会いに関心をよせている。陶から空気へ、広さへと向けられた動きには、兼藤さんと何者かの出会いが重なっているのだろうか。細く延びる触手の如き陶の先端は、そのような光、煙、香、音へ伸び上がる憧れの形にもみえる。あるいは、触手は、陶自体なのか漂い出ていく光や煙なのか、どちらに属するものなのかまだ不分明なのかもしれない。
素材としての陶の力に耳を傾けながら、陶を広さに向けて開いていこうとすること。それを有効に強靱に造形化してゆくのは、簡単なことではないだろう。だが両方向のベクトルを併せもとうとする欲求が、兼藤さんの作品の背後にはある。
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