加藤委展(瑞玉ギャラリー 1999.6.6-12)
(文・柏木麻里)

『陶説』557号 1999年8月


一枝の紫陽花を浮かべた白磁鉢、藍布に映える青白磁皿、窓いっぱいの外光を浴びた白磁カップ。瑞玉ギャラリーの表情豊かな室内で、加藤委さんの器は、背景や光に応じて様々な魅力を見せてくれた。今回出品されたのは青白磁と白磁の器で、青白磁は長方大皿、楕円大皿、四角皿、丸皿などのタタラ皿と、花入、徳利、銚子などの袋物、白磁は鉢、小皿、カップなど。白磁といえば、昨夏うちだギャラリーの個展に出品された、薪窯を使用した厚手の茶碗が記憶に新しいが、今回の白磁はガス窯によるもので、どれも薄く、手取りの軽い繊細な作品が多い。なかでも、薄い磁土があざやかなロクロ目をえがく鉢は、小さな高台から白磁が育っていく動きそのものを見るようだ。

青白磁の長方大皿、楕円大皿は厚みがあり、どちらも差し渡し50センチ程の大皿。長方大皿は、ねじ切られた白い土の表情が印象的だ。滑らかな表面の、わずかな窪みは波のようにめくれて、皿全体はやわらかな水面にも見えるし、また淡い陰影の雲をも思わせる。青白磁の丸皿は中央に釉を青く湛え、片端をすぼめて側面を厚くみせた形は、ふくらんだ雫の一瞬を切りとったかのようだ。

加藤委さんの仕事は、器のほかに、青白磁のオブジェ「Freeze Flame」や「Cashiの発見」などでも知られている。オブジェにせよ器にせよ、タタラを切ったり裂いたりすること、ロクロで土を引き上げることは、土の動きであると同時に、作者の身体の動きでもある。制作過程のなかで、土と身体の動きが共振するとき、炎や氷、水にもたとえられる瑞々しい生命感が作品に呼びこまれるのだろうか。

小さな水溜りが、覗き込んでみれば無限に深まる空を映しているように、加藤委氏さんの器には、小さいながらも雲のような水の流れのような場所がひらかれている。




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