七代清水六兵衛「截土容展」(コンテンポラリーアートNIKI 1999.6.21-7.3)
(文・柏木麻里)

『陶説』557号1999年8月(抜粋)


東京・銀座の画廊16軒が運営する「銀座ギャラリーネット」では、1997年より、共通のテーマに基づいた展覧会・シンポジウムを共同開催してきた。今年はその第3回目にあたり、「Career(キャリア)持続する現場」と題して、経験豊富なベテラン作家たちをとりあげた。その一環としてコンテンポラリーアート NIKIで 行われた、清水六兵衛さんの「截土容(せきどよう)展」は、今秋ご子息の清水柾博さんが八代六兵衛を襲名されるため、七代六兵衛名で行われる最後の個展となった。

清水六兵衛さんは1922年愛知県生まれ、東京芸術大学鋳金科を卒業後、先代清水六兵衛の後継者として陶芸の道に入られたが、67年に九兵衛名で彫刻へ転身後、アルミニウムなどの金属を素材とする彫刻家として活躍。87年に七代六兵衛を襲名され、再び陶器の仕事も手がけるようになってからは、一輪挿し「花陶容」「席花容」や香炉、茶碗などの器ものを制作してこられた。

今回の個展タイトル「截土容」は、一見「花陶容」など、以前の器の名前と似ている。しかし今回メインとなったのは、はじめて出品されたという、陶のオブジェ14点だ。ほかに一輪挿しも6点並ぶ。様々な形のオブジェはどれも30センチほどの大きさで、そのほとんどが4つの足をもち、どこかユーモラスな小さい生きものの姿にも見える。

赤土をプラスした信楽土のタタラで型作りした上で、そこに切り込みをいれて形を作る。「截」の字は、辞書に「布、紙、板状のものを切る」とある。「截土容」とは、タタラ状の土を切ってできる形、を意味するのだろうか。切り込みを入れられた時点で、土の形は変化する。切られて複数にわかれた部分は、互いに近づき、また互いを噛みあう(「前へ1」)。切り込みによって、部分どうしの 関係が生まれているのだ。さらに清水氏自身が「よわい土」という土は、1230度程の高火度を受けて焼成中にたわみを生じ、新たな表情をそなえる。

「鍵盤1」と題された作品では、互い違いにずらされ、たわみ込んだ部分どうしが、空気を震わせながら音のイメージを奏でる。奏でるのは音ばかりではない。「共に」は、わずかにたわんだ切り込み部分が身をよせあい、揺れながら水中を上昇してゆく大きな泡を連想させて、調和にみちている。また「黙考1」「耐える」などでは、土のたわみは、自らの内側に沈みこんでいく、また沈むまいとしているような感情をさえ醸しだす。包みあえないものを切れ目から発散しながら、内部をまもっている「包む」は、土でしかありえない、断面のやわらかな厚みが優しい。理知的な形でありながら、人の、そしてもしかしたら土の感情をも漂わせるあたたかみが、「截土容」にはある。




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