中井川由季展(マスダスタジオ 2000.4.6-28)
(文・柏木麻里)

『陶説』566号 2000年5月


内側からふくらむような形が、そっと置かれている。その形は、いまにも浮かびあがりそうな軽さと、ひとの身体を包みこむ大きさとをあわせもっている。

「留まる所を見つけて」は長さ179センチ、灰色の袋をつなげたような四角形の大型作品。端がわずかにもちあがり、中央には受けるようなくぼみができている。
 「柔らかく着地する」は、コールテン生地にも似た質感の畝に包まれた、淡いピンク色の作品。長方形の中央を縦に走るくぼみがあり、そこから両脇へとやはり袋状にふくらむ。上下端の一方はやや幅広に四つの部分にわかれ、もう一方は大きく二つにわかれてふくらみを閉じている。横たわる人体を連想させる形だが、人体よりも一まわりりは大きい。

手びねりで、長細い粘土紐を使って制作するが、手元で作った小さなパーツを組み上げるのではない。作品の長さのぶんの細長い粘土紐をもって、作者が作品の周りを動きながら形を作ってゆくのだという。ある程度の分量を作っては乾燥させ、という手順を重ねるので、ひとつの作品の完成には三ヶ月位かかるそうだ。

中井川さんは作品の大きさについて「身体を使って、自分が動くことによって大きなものを作ることが気持ちよい」のだと語られる。それはまた、日々の天候や気持ちと対話しながら進んでゆく仕事でもあるという。自分の手の内で出来上がる仕事ではなく、いわば自分を重ねて、空間的にも時間的にもより大きな何かに近づいてゆく、そのような制作過程をへて、作品はうみだされているのだ。

これまでもうねりのある大型作品を発表されている中井川さんだが、今回の作品のもっとも印象的な点は、見る者の身体を受けとめるように働きかけてくる、作品の雄弁さであるように思われる。大きさは、作品自体のためにのみ自足しているのではない。また、ひとを威圧し対峙する大きさでもない。作品の大きさは、見る者と切り離されてそこに在るのではなく、見る者を受けとめるくぼみと、やわらかく温かく包むふくらみをそなえて、わたしたちの身体に働きかけてくるのだ。

身体の大きさを超えて、しかし身体を動かしながら作者が一歩ずつ近づいた大きさが、見る者を包み、受け容れているのかもしれない。そのような大きな息のはじまりが惹きつけてやまない。
  1960年茨城県生まれ。陶11点、リトグラフ5点の構成。




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