『現代詩手帖』2000年5月号

薄明へ      柏木麻里






靄は ゆれて
こわれながら

なにを
そんなに言いたかったの


岸をなくして
きのうが
きょうに辿りつこうとする
薄明の海

まだ
溶けていることばへ

たゆたいかえす透明な舌


 呼ばわるような

 曙光に
 あたためられて

囁きが ほの白く
波間に身をおこしては

空へ

聞きとられてゆく


想いに目をこらすのはだれだろう



  なにも知らない青さで空がうみなされている
  わたしたちをひとつに蕩かした、遠いあわいから


うちよせてくる


  目醒めを うすい皮膚でまもって


名もない
からだの岸へ

あたえる









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