『明空』5号 2000年2月

靄がほどかれて      柏木麻里








  薄明


わたしが舫われている

波打際


 ゆれは
 だれの匂いなのだろう
 もってゆけない



  *




空がたえずうごいているから



こわれていく、からだ

  (ふくんでいた)


 うまれては、
声へとあふれでるまえに

 うしなわれてしまうことば



  *




いくつもの思いが薄明にたなびいている


 見わけられることなく




  *






靄は

余ってしまった息たち



だれかから

宛てられていた




  *




わたしたちの匂いはふかく結んでいるのに、

どれだけ触っても
あなたのからだになることができない



 のこされた、
 吐息と吐息

遠くまじわっている 靄




  からだが行ってしまったあとで




息が もういちど胸にかえりたいとおもう










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