『現代詩手帖』1995年2月号 投稿欄



透視図      柏木麻里




音楽が鳴りやんだ
あとにも
この部屋は
どこか別のところ

ああ
そう
部屋は
音楽の周囲に浮かんでいる
あの透明な細胞
(セル)
のひとつにすぎなかったのだ

青と緑にふちどられた世界は
終わってしまった

透視図の中に
失われていく後姿を
追いもとめても
いま
どの辺りを
遠ざかっているところなのか
それとも
どこかで立ちどまっているのか
感じることはできない

もう年をとらない者のことを
考えようとすると
どんどん
部屋の数がふえていく
バタンバタンと
戸をあけ 入り 通り 見まわし くりかえし








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